第3回「イタリアの先達たち」

2003年10月25日(土)・番町教会


プログラム


アンドレア・ガブリエリ   トッカータ 第9旋法
クラウディオ・メルロ   トッカータ 第1番 第1旋法(第1巻)
  カンツォン ラ・ツァンベッカーラ
ジョヴァンニ・マリア・トラバーチ   カンツォーナ・フランチェーザ・クロマティカ第7番
ジローラモ・フレスコバルディ   トッカータ 第2番(第2巻)
  カプリッチョ 第1番 ドレミファソラ
*ゲオルク・ベーム   カプリッチョ ニ長調
     
タルキーニオ・メルラ   トッカータ 第2旋法
ミケランジェロ・ロッシ   トッカータ 第7番
*ドメニコ・ツィポリ   カンツォーナ
ジローラモ・フレスコバルディ   カンツォーナ 第1番
  トッカータ 第10番(第2巻)
*ヨハン・セバスチャン・バッハ   トッカータ ホ短調 BWV914
ミケランジェロ・ロッシ   トッカータ第10番
*印は、イタリアの先達、つまりバロック初期の作曲家ではないという印です。先達さんたちの作品をさらに理解して頂きたいために、少しあとの時代の作品も、プログラムに加えました。

 

プログラムノート



作曲家のプロフィール (1)生地 (2)没した地 (3)職業 (4)主な活動場所

■アンドレア・ガブリエリ 1510-20年頃〜1586
 (1)ヴェネツィア (2)ヴェネツィア (3)作曲家、オルガニスト (4)ヴェローナの大聖堂、1564〜聖マルコ大聖堂(ヴェネツィア)の第2オルガニスト(第1オルガニストはメルロ)、1585〜メルロの後継者として第1オルガニスト。
  彼は、当時のイタリア音楽のあらゆる種類、つまりミサ曲、モテット、マドリガーレ(多声声楽曲)、そして器楽曲を作曲しています。そのうち、器楽曲以外は1554年から、器楽曲は死後、イタリアで出版され、ドイツでは1648年まで出版され続けるほど人気がありました。彼のオルガン作品は、鍵盤音楽の形式の発展に貢献したと言われています。

■メルロ 1533〜1604
 (1)コレッジョ (2)パルマ (3)作曲家、オルガニスト (4)1556年ブレーシャ、57〜84聖マルコ大聖堂(ヴェネツィア)、1586〜パルマでオルガニストとして活躍。
  当時最大のオルガニストと仰がれ多くの弟子を育てました。1566〜75年には音楽編集、出版を手がけ、自作品も数多く出版しました。オルガン建造も行っています。彼のオルガン音楽ではトッカータが重要です。自由な即興部分と、模倣部分が交互に現れる彼のトッカータには、すでにトッカータとフーガの分離の兆しが見られます。ドイツのブクステフーデ、オランダのスヴェーリンクなどが影響を受けたと言われています。

■トラバーチ 1575〜1647
 (1)モンテ・ペルジオ(マテラの西) (2)ナポリ (3)作曲家、歌手、オルガニスト (4)1601〜ナポリのスペイン副王の王室礼拝堂オルガニスト、1614年礼拝堂楽長に就任。
  作品は、ミサ曲、マドリガーレ、トッカータ、カンツォーナ等の鍵盤曲など多岐にわたります。半音階の使用はフレスコバルディの先駆と言われています。

■フレスコバルディ 1583〜1643
 (1)フェッラーラ (2)ローマ (3)作曲家、オルガニスト (4)1608年ローマのサン・ピエトロ大聖堂のオルガニスト(オルガニスト最高の地位)に就任。1615年マントヴァの宮廷、28〜34フィレンツェの宮廷オルガニストを兼ねる。
 1607年、教皇大使に従ってブリュッセルに行き、北方の鍵盤楽派に接してその技法を吸収して帰国しました。教師、作曲家としても活躍、門下から優れた人材を生み出しました。自作品の出版も行っています。ヴェネツィア、フェッラーラ、ナポリなどの鍵盤音楽諸楽派の伝統を総合し、トッカータ、リチェルカーレ、カンツォーナを発展させ、拍節にとらわれない自由なルバート、半音階法の用法、調性感の確立においても重要な功績を残しました。

■ベーム* 1661〜1733
 (1)ホーエンキルヘン (2)リューネブルク (3)ドイツの作曲家、オルガニスト (4)1693〜97ハンブルクに滞在後、1698〜没するまでリューネブルクの聖ヨハネ教会でオルガニストを務める。
 後期バロックの北ドイツ・オルガン音楽の巨匠の一人で、若い頃のバッハに影響を与えたと言われています。

■メルラ 1594/95〜1665
 (1)クレモナ (2)クレモナ (3)作曲家、オルガニスト、ヴァイオリニスト (4)1621〜ワルシャワ、26〜クレモナ、31〜ベルガモでオルガニストを務め、1646年クレモナの大聖堂オルガニストに就任。
  器楽合奏のためのカンツォーナ、伴奏付きマドリガーレ、モテットなどを作曲しました。

■ツィポリ* 1688〜1726
 (1)プラート(トスカナ地方) (2)コルドバ(アルゼンチン) (3)作曲家、オルガニスト (4)フィレンツェ、ナポリ、ボローニャで学び、1710〜ローマでパスクィーニに師事。1715年イェズス会のオルガニスト、16〜イェズス会に入会、17〜コルトバに派遣され、作曲家、オルガニストとして活躍。
  「オルガンとチェンバロのためのソナタ集」を1716年に出版して、ロンドン、パリで再販されるなど、人気を得ました。

■ミケランジェロ・ロッシ 1601/02〜1656
 (1)ジェノヴァ (2)ローマ (3)作曲家、ヴァイオリニスト、オルガニスト (4)1620〜ジェノヴァのオルガニスト、24〜ローマに移りマウリツィオ枢機卿に仕える。
  あまり詳しいことはわかっていません。フレスコバルディにも学んだと言われています。オペラの作品も残っています

■ヨハン・セバスティアン・バッハ* 1685〜1750
 (1)アイゼナハ (2)ライプツィヒ (3)ドイツの作曲家 (4)1708〜17ヴァイマルの宮廷楽師、オルガニスト、1717〜23ケーテンの宮廷楽長、1723〜50ライプツィヒの聖トーマス教会カントル。

楽曲について

■トッカータ
「触れる」というイタリア語の動詞が語源です。分厚い和音と急速なパッセージを駆使し、即興的な自由奔放さを特徴とします。 ・ガブリエリのトッカータ第9旋法は、楽曲にはっきりとした区切りの箇所がなく、音階的パッセージとそれを支える和音で成り立っています。音階も、殆どシャープやフラットが出てこない、何調という感覚のつかめない音階ですが、美しい流れを形成しています。後半、ひとつのテーマによるポリフォニックな部分が出現します。
メルロのトッカータ第1番は、トリルのような、ミファミファというように速く繰り返す音型が屡々現れます。曲の中にはっきりした段落はありませんが、終止形が小さい区切りをつけています。音階的パッセージも多く、この曲では、フーガ的な部分は見られません。
フレスコバルディのトッカータは、ひとつの楽曲がいくつかの段落に分かれ、それぞれの段落が別々な性格を持っているのが特徴です。第2番は、ひとつひとつの段落がドラマティックなので、そのことが特に分かり易い曲です。また、時折、使われている不協和音の大胆さにびっくりすることもあります。第10番は、内容が次々と変化していく、模倣性の強い曲です。トッカータの出だしは、ゆったりと始めて、徐々に速くしていく、小節や拍子にあまりとらわれないで情感をこめて演奏する、など、フレスコバルディ自身のことばが序文として残されています。
メルラのトッカータは、前奏のような和声的な部分から始まり、音階的なパッセージと特徴あるリズムで進み、最後の段落は活気あるテーマのフーガで盛り上がって終わります。
ロッシのトッカータは、前奏的な部分に始まり、速いパッセージと活気あるリズムによるいくつかの段落でできています。時折、意表をつく不協和音が現れるのも特徴のひとつです。特に第7番は、半音階を多用し、最後の段落では、不協和音がこれでもかという位連続して現れます。ロッシは、本日の2曲を含む10曲のトッカータを残しています。
バッハ*のトッカータ・ホ短調は、これらのトッカータの特徴を取り入れ、消化し、再組織したという感じの曲で、若きバッハ(1710年頃)の作品です。4つの段落に分かれ、第1部と第3部はイタリア的トッカータ部、第2部と第4部はドイツ的なフーガです。

■リチェルカーレ(リチュルカール)
 「探求する」というイタリア語の動詞が語源です。この楽曲の性格は多様で定義しにくいですが、フーガの前身ともいえる模倣的な要素が特徴の一つです。
ガブリエリのリチェルカールは、4小節に及ぶ長いテーマが最後まで形を変えず、カノンのように重なっていく静かな曲です。

■カンツォーナ(カンツォン)
 16世紀のフランス・シャンソンから派生した「歌」という意味の器楽曲です。生き生きとしたリズムと、フーガ的な要素を持っています。
メルロのカンツォン「ラ・ツァンベッカーラ」は、あまりリズムは感じませんが、全体が軽快な流れを持っています。
トラバーチの「カンツォーナ・フランチェーゼ・クロマティカ」は、フランス風の半音階のカンツォーナという意味で、4つの部分に分かれますが、リズム感溢れる半音階を多用したテーマが、それぞれの部分に一貫して現れるフーガ的な曲です。
ツィポリ*のカンツォーナは、トラバーチより100年ほど後の作品です。歯切れの良いテーマが全体を通して現れ、対旋律も殆ど変化なしに繰り返される、明確な調性をもつポリフォニックな曲です。
フレスコバルディのカンツォーナは、3つの段落に分かれ、いきいきしたテーマのフーガが展開されます。段落のつなぎ目にトッカータ的な部分が挿入されています。

■カプリッチョ
 気ままな、変わった性格を持つ楽曲で、標題を持つものもあります。リチェルカーレやカンツォーナとともに、初期のフーガの1形態と見られています。
フレスコバルディのカプリッチョ「ドレミファソラ」は、10の段落に分かれ、ドレミファソラのテーマが拍子、リズム、音高を変え、見え隠れしながら他の要素と絡み合っていくという、完成度の高い作品です。段落の性格により、テンポ、レジスターを変えて演奏します。
ベーム*のカプリッチョは、時代が100年ほど後になります。3つの部分からなり、ひとつのテーマが3つの部分に拍子やリズムを変えて現れるので、曲全体に統一感があり、整然とした印象ですが、自由さ、気ままさは失われています。